「ミハイロフスキー劇場バレエ 新春特別バレエ」 東京国際フォーラム

「ミハイロフスキー劇場バレエ 新春特別バレエ」
東京国際フォーラム ホールA 2016年1月2日

 新春早々、ミハイロフスキー劇場バレエ「新春特別バレエ」に行ってきました。個人的には年度末のギエムの横浜最終公演の抽選(立ち見席)に外れてしまった分の振り替え観劇・・・。ミハイロフスキー劇場と言ってもピンと来ないのですが、旧レニーグランド国立劇場の名称変更です。かつては、ショスタコーヴィチの「明るい小川」(バレエ)や「鼻」、「ムツェンスク郡マクベス夫人」等の問題作の初演を行い”ソビエトオペラの実験室”と呼ばれた革新的劇場だったのですが、この日の演目は「クルミ割り人形より第2幕」、「白鳥の湖より第2幕」、「ローレンシア抜粋」という古典的三演目でした。

 東京国際フォーラム・ホールAは初めて入ったのですがとにかくでかいホールの印象。この日は2階席を閉鎖し1階席だけの公演。客席の底面がロビーの天井になっている構造にちょっと驚きたり、ホール内の壁面がほぼ金属系で、生オケの音響的にはどうなんだろう?と思ったり。この日も貧民席にて1階席最後部の最前列。この日のお客は、裕福な方々と貧民な方々とに二分化していたようで、私の前の普通席はがら空き。おかげて前席の方々の挙動に惑わされることなく平穏に観劇できました。

 最初の演目「クルミ割り人形より第2幕」は衣装がカラフルで華やかな印象。演出は舞台の背景は幕を吊るしただけの簡素なものですが、演者の前面に半透明幕をさげて雪の降っている映像を移す等、映像的工夫は少々あり。主演(マーシャ(クララ)、クルミ割りの精)のアンジェリーナ・ヴォロンツォーワが童顔で可愛らしいくて好印象。バレリーナ達の技術は総じて高い印象。最近、クララを子役にし、クルミ割りの精と踊り分ける演出も多いのですが、ヴォロンツォーワだと両方やっても全く違和感のなくて良い感じです。ただ、何か全体にぬるーい雰囲気が漂っていて、演出上なのか演技のせいなのかそれとも私の認識不足か、王子とネズミ達の戦いの場面でもそこが戦いの場面だったというのを気づかないくらいの演技、お客も評価に困って拍手しにくい雰囲気は漂っておりました。

 「白鳥の湖より第2幕」はオデットがアナスタシア・ソボレワ、ジークフリートがファルフ・ルジマトフ。ルジマトフは一昨年、キエフバレエの来日公演で客演する予定だったのが、政治的問題で来日できななく見る事が出来なかったということがありましたので私も今回が生初見。2幕は湖のほとりの場面で、有名な4羽の白鳥や王子と白鳥のアダージョがある場面。ソボレワは2幕だけの演目であるのにも関わらず、悪魔ロットバルトと王子の間で苦悩する表情を終始湛え、役になりきっているのが印象的。技術も高い方のようですがマリインスキーのロバートキナなとと比べてしまうと・・という感じはします。ルジマトフは、オデッットの事を思う一途な王子というより、フェラーリやランボルギーニでも乗り回す金持ちのイケメン的なオーラでちょっと・・という感じあり。パンフレットを見たらこの方、このバレエ団の芸術顧問をやってらっしゃるようで、ま、そういう大物オーラなのかもしれませんが。この日の演出は2幕では王子の目立つ踊りが無いようで、最終的にオデッットの腰を回している腰回し職人の印象しか持てなかったのは少々残念。コール・ド・バレーは、ほぼばらばらで、マリインスキーあたりのレベルを期待すると何じゃこりゃのレベルなのですが、ウイーン国立劇場バレエをさらに下回る感じです(家にある昔のDVDを見ての個人的感想です・・・)。ま、このバレエ団はモダンとか創作物が得意という話もあるので、古典は得意ではないのでしょうか??

 「ローレンシア抜粋」はこの日、一番力が入っていたと思われる演目。ソビエト時代の代表的な演目との事で1939年初演。作曲はA・クレイン。筋書きは、簡単にいうと戦いに勝って凱旋してきた騎士団長の傲慢(愛し合う主人公のオーレンシアとフロンドーソの中を裂き、ローレンシアを奪おうとする)を民衆が力を合わせ倒すという勧善懲悪話。この日は全編の中から、騎士団長の凱旋を喜ぶ場面、オーレンシアとフロンドーソの結婚式の場面、騎士団長に民衆が勝利し喜ぶ場面が抜粋されたと思われるが、いずれも民衆が中心で群舞、キャラクターダンスがメイン。フロンドーソ役のイワン・ワリシーエフがマッチョな太め体系でちょっとびっくりするけど、動きは軽くジャンプも立派(カーテンコールではジャンプで幕前に出てきて観衆を沸かせていた)。ダンス的な見所はあまりないような気がするけど、娯楽的には良質な演目ではあるような気がするし、バレリーナも前二演目のようなゆるーい感じではなく、やる気がみなぎる踊りぶりで見応えはありました。音楽はファリャやラベルなどの近代音楽のいいとこ取りの音楽のような気もするけど、マリインスキーで見た「愛の伝説」に比べると天上的な上質感。オーケストレーションは上手いね。

 オケはミハイロフスキー劇場管弦楽団、指揮はバレンティン・ボグダーノフ(当劇場の常任指揮者)。オケは在京の日本のオケに比べると少々レベルが下かな、と思われますが安定した演奏ぶり(といっても事故はそこかしこで起こっていましたが・・)。指揮はベテランらしい統率力のある指揮ぶりで、「クルミ割り人形」の幕切れで思わず拍手をしたくなったのはこの指揮者の盛り上げが上手だったからだと思われます。
現地では、古典物も新演出を行って賛否両論とかいう話もあるので、苦手そうな古典的な演出ではなく、モダンな物を持ってきたら見てみたいと思わせるバレエ団ではありますね。

ミハイロフスキー劇場バレエ2016(旧レニングラード国立バレエ)

マリインスキーバレエ鑑賞記

11月28日(土)、11月30日(月)、12月5日(土)と贅沢にも、マリインスキーバレエの日本公演、3演目を見てきました(いずれも貧民席・・・)於:上野の東京文化会館。

11月28日は「愛の伝説」音楽:アリフ・メリコフ 振付:エリー・グリゴローヴィチ
不治の病で余命幾ばくも無い妹の事を悲しく思った女王が、僧と取引をし自分の美貌と引き換えに彼女の命を救う。しかし、自分の密かに愛する男性と妹が恋仲になった事を知り激怒した女王は、男に山で水路を開く労役を命ずる。しかし、彼無くしては生きていけないという妹の懇願で、山を下りるように説得をしに行った女王と妹は、山で民衆の支持を得て水路を開く事に希望を見いだした彼を諦めることにし、山を降りてゆく・・といった内容。前半の兄弟愛やら恋の与太話みたいな設定が、後半の民衆の希望をかなえる力強い男性みたいな展開で見事に吹っ飛んでしまうという、如何にもソビエト共産党が喜んだであろうストーリー展開。音楽もほぼ大衆迎合的に見事に単純化された反知性主義(?)的印象が強いもの。1961年初演のこのバレエは、ある意味社会主義的リアリズムの模範的な作品なのかもしれない。振り付けも群舞が中心で特にみるべき点もないもの(のような気がするが、この辺はあまり詳しくない・・)。まあ、個人的には社会主義的リアリズムは、ハリウッドへの一本道である事が理解できた事と、他の日の作曲家、プロコフィエフとチャイコフスキーがいかに素晴らしい作曲家であるかを再認識できた事が最大の収穫かもしれない。

11月30日 「ロミオとジュリエット」音楽:プロコフィエフ 振付:ラブロフスキー
仕事の関係で、会場入りがギリギリだったので幸運にも1F席の後ろに通された。バレエのの様に水平視線でみなければジャンプの高さも判らないような演目の場合、5F席の様な高所からの鑑賞は致命的だし、ピトからのオケの音も直接音が多くなって少々バランスが悪いので、通常の音楽会よりもバレエの公演は貧民席の貧民度はより高く、今回の1F席への移動はとってもありがたい話なのであった。雑務から芸術の世界に突然飛び込んだ事の落差は、芸術鑑賞上の評価値を上げる効果があるのか(?)、何からな何まで美しく感じられるのだけど、まあ「愛の伝説」を見た後なのでっていうのもあるのですがね・・。1938年初演のこのバレーも、当初はハッピーエンドにさせられたりとか色々あったようですが、今回の振り付けは初演時のものでエンディングは通常の悲劇。作曲家と密接に議論をしつつ行った演出の為か、音楽とバレエが一体になったドラマ性が際立った内容で、音楽や音響も多彩だが統一性も持つ、ある意味高度な劇音楽作曲家としてのプロコフィエフの腕前の凄さとを見せつけられる事になった。振り付け師の非凡さと共に。

12月5日 「白鳥の湖」音楽:チャイコフスキー 振付:プティパ、イワノフ
「白鳥の湖」も調べてみると初演は4幕ものだったのが現在は3幕になっているものもあったり、王子と白鳥(オデット)が2人とも死んでしまう悲劇(初演)、魔法が解け2人で幸せに暮らす、2人は永遠の世界(天上)に旅立ってゆく・・等色々あるようで、チャイコフスキーが作曲時に想定したものとは相当異なる使い方をしている曲もあるのではないかと想像する。この日の演出は3幕物で悪魔を倒してのハッピーエンド。前二演目とはうって変わって客席は満員御礼の様相。バレリーナに興味がある方達にとっては、個人技が遺憾なく披露することが出来るこの演目に対する関心が特に高いのかな?と思った。この日、オデッットを踊ったウリヤーナ・ロバートキナは安定の技術と深い表現力で聴衆を魅了ていた。個人的には以前、バレエフェスティバルで見た彼女の白鳥が、演技というレベルを超えた白鳥に自己同化しているかのような所作の印象が強すぎて、この日はそれほど感動しなかった。しかし、そもそも全幕を踊るのと(黒鳥も踊る訳だし・・)一部を踊るのは力の入り方も違いますよね。

演奏は指揮がアレクセイ・レプニコフ、演奏はマリインスキー歌劇場管弦楽団。指揮は誰かの副指揮でもしているかのような借りてきた猫みたいな指揮ぶり。決め所は当たるも八卦当たらぬも八卦。たまに引っ張ろうとして振るとオケが後から三々五々ついてくる。オケは弦楽器や管楽器(特に金管楽器)の音色が美しく良く響く音。日本のオケがピットに入った時とこうも音が違うか?という位印象が違う。ちなみに同時期に本国ではオペラをやっているようで、オケは引っ越し公演では無く分割公演の様。オケの層が厚いという事の様なのですね。

開演前には楽屋口で散発的にサイン会めいたことも・・・