ヘンリー四世 シェイクスピア作  新国立劇場中劇場

ヘンリー四世
作:シェイクスピア 翻訳:小田島雄志 演出:鵜山仁 場所:新国立劇場中劇場 12月3日(土)

演劇はオペラやバレエと違って舞台と観客席の垣根が低い様な気がする、というと後者は舞台と客席の間にオケピットがあるからという劇場の機能的な側面に回答を求められそうだけれど、観客席を自由に行き交い笑いさえとる出演者の動きをみて本当のところはどうなのだろう?という疑問も浮かんでくる。合計で6時間もかかる舞台を1日で見るというのはある種の苦行になるのではないかという不安もあったが、そんなことは杞憂に過ぎなかったのは嬉しい誤算だった。音楽家の端くれとしては「ヘンリー4世」は、ファルスタッフ(フォールスタッフ)の大活躍する舞台作品であるというのが大きな興味ではあるのだが、この登場人物はヴェルディの「ファルスタッフ」より本作品での方がはるかに魅力的に見える。対立項としての権力や権威が主要な登場人物として登場していることがその魅力を倍増させているとは思うが、そもそも「ファルスタッフ」(というか「ウインザーの愉快な女房たち」)はスピンオフ作品なのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれない。独白も見事にきかせ、笑いもとるフォールスタッフ役の佐藤B作ははまり役。あのつくった嗄れ声で長丁場を演技し続けられるのは流石のプロ。ハル王子役の酒井健二は、どうしても仮面ライダーのイメージで見てしまうのはプロフィールの印象が残っていたせいかもしれないが、子供の頃から王になるべく英才教育をされていて、良くも悪くも王室の匂いをさせているはずの王子が、ただの街の奔放なロッカーにしか見えないのは演出のせいなのか本人の演技のせいなのか。同様にヘンリー・パーシー役の岡本建も、王に裏切られた一族の苦悩や恨みがもう少しにじみ出ていれば、ただの気性の荒いだけの男のようには見えなかったはず。文学座の脇役陣は安定の演技で脇を固めていたが、非文学座の王ヘンリー4世役の中嶋しゅうだけが、舞台俳優的ではないおとなし目の発声で演じて独自の雰囲気をつくっていたのが興味深い。   第1部が動ならば第2部が静。第一部で王子とともにあったフォールスタッフが王子が王になった途端に追放されるのは、シェイクスピアのバランス感覚の素晴らしさだと思う。あれがあったからこそ、この作品は聴衆に疑問符を投げかけて終わることになる。安直な答えもヒーローも生み出さないのが良い。音楽の使い方は常套的で、いかにも商業音楽的な音楽付け。使っている音楽がクイーンというのも少々ベタな選択。その他、第2部で地方判事役のラサール石井と佐藤B作が兵士を審査する場面でのアドリブのやり取りはベテランコメディアンたちの妙技であった。

ヘンリー四世