アイヌ研究(読書)

松浦武四郎という人は北海道とアイヌにとっては切っても切れない重要人物である。(小学生の時に北海道の歴史という授業があったけど、そこで習っただろうか?)三重の松坂出身の彼は六度も蝦夷地に赴き150冊およぶ記録書を残している探検家でもあるが、優れた地理学者、地勢学者、民族誌家でもあった。松前藩や現地の和人の非道なアイヌに対する扱いに憤慨し実名入りで幕府に報告書を上程したことから、松前藩の刺客に狙われる生活となった彼は、アイヌと彼らの生活を愛するヒューマニストでもあった。佐江衆一氏の「北海道人」にある”北海道人”は松浦武四郎の雅号であり、今の北海道の地名はここから来ているのだと思われる(彼が地名として提案した中には北加伊道が含まれていたが北海道ではなかった)。
池澤夏樹の「静かな大地」は作者の先祖にあたる人物を中心にした実際の記録に基づく創作物。様々な文献を参考に実際の北海道史の中に実在の人物や架空の人物を当て込み、彼らの事績を曲げずに書かれた小説。無色透明な歴史書を読むより、当時のアイヌと和人の交流や軋轢、次第に影を擡げるアイヌに協力する者への圧力や蔑視が手に取るようにわかるのは小説という形式の強みだろう。しかしこの小説の結末は残酷なまでの悲劇であり、正直、涙無くしては読むことができない。”静かな大地”はアイヌや心ある和人にとっては永遠に訪れない夢物語でしかなかったのだろうか?
青木純二「アイヌの伝説と其情話」。こういう古い書物が国立国会図書館のデジタルコレクションで自由に見ることができるのはとても有難い。著者の青木純二が新聞記者時代に北海道各地で古文書、研究書、アイヌ部落の古老達に聞いた話をまとめたものと言う。現在出版されているアイヌの言伝え等に比べて、何故かある種のリアリティーがあり興味深く読んでいるが、記述の背景にアイヌ差別や蔑視が感じられて気分は良くない。こういう文章を通じて大衆のアイヌ感が形成されていったかと思うと、記者や文筆家の公平とななんなのだろう?と古くて新しい問題が頭をもたげる。

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